山岳事故に学ぶ

グラフで見る山岳遭難の特徴と問題点




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※ イメージ図(©photoAC)

あまり知られていませんが、警察庁の統計(※)によると、1990 年頃から山岳で遭難される方の数が急増しており、近年ではかつての5倍近くとなっています。また、毎年、山岳遭難で 300 名前後の方が死亡又は行方不明となっています。

※ 警察庁生活安全局生活安全企画課「令和6年における山岳遭難の概況等」(2025 年6月)。なお、一般には、山岳遭難とは「自分で下山することができなくなること」を意味する用語である。

しかし、山岳遭難は、多数の死者が出るような災害を除けば、視聴者の関心を呼べないからなのか、あまり大きく報道されることはありません。マスコミが大きく扱わないのは、山岳事故は山岳愛好者の災害であって、水難事故や火災災害などとは違い、一般の視聴者には関係がないと思われているのかもしれません。また、たとえ低山であっても登山には一定のリスクが伴い、それが分かった上で登山をする以上は、最終的には自己責任ということもあるのでしょうか。

しかし、現在ではすでに登山は一般の方の健全な趣味となっています。2023 年の山岳愛好者は 480 万人程度であり(※)、もはや特別な人々のことではありません。確かに、準備不足で登山を行ったり荒天で無理な登山をしたりして事故に遭うケースも散見されますが、だからといって災害の増加を放置してよいことにはならないでしょう。

※ 日本生産性本部「2023 レジャー白書 」(2024年)

本稿では、まず日本の山岳遭難の発生状況をグラフを用いて概説するとともに、その防止方法について、山岳以外の災害全般の防止に教訓となるという観点を含めて解説します。




1 山岳事故の発生状況

執筆日時:

最終改訂:


(1)山岳遭難の長期的な推移

ア 警察庁の統計からみた長期的推移

(ア)警察庁の統計からみた長期的推移
遭難者数等の推移

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図の警察庁の統計(※)によると、2024 年に山岳遭難で 3,357 名の方が遭難し、うち 1,390 名の方が負傷し、300 名の方が死亡または行方不明となっている。長期的には 1990 年ころから増加傾向となり、減少傾向が見られない。

※ 警察庁生活安全局生活安全企画課「令和6年における山岳遭難の概況等」(2025 年6月)。

山岳遭難の発生件数の推移

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なお、一般には、山岳遭難とは「自分で下山することができなくなること」を意味する用語である(※)

※ 栃木県警の通達では、「山岳遭難とは、山において誤って死傷し、または行方不明となったもの、若しくは遭難者救助のために警察官、自衛隊、民間救助隊又は市町村職員等が出動したものをいう」とされている。

なお、下側のグラフは、1997 年からは山岳遭難者の詳細な数値データが公表されているため、積み上げグラフにしてみたものである。折れ線グラフは発生件数であるが、1件の事故で複数の遭難者が出ることがあるので、遭難者数よりも少なくなっている(※)

※ このグラフから、1件の事故で複数の遭難者が出ることは多くないことが分かる。事故が起きても、グループで遭難した場合は、無事な方が遭難者の救護に当たれるということがここから読み取れる。


(イ)無事救出等とは

警察庁統計の無事救出等には「自力下山」が含まれている。遭難と言っても、救助要請をした後で自力で下山したケースや、道迷いで救助を要請して救助隊に付き添われて下山し、(事情聴取等の手続きを経て)そのまま帰宅するケースもある。

このように言うと、大したことでもないのに救助を要請しているのではないかとの誤解を受けるかもしれない。しかし、救助要請せずにそのまま歩き回ったりビバーク(露営)したりすれば、低体温症となって生命にかかわることもある。

救助隊によって山小屋などに運ばれ、暖かい場所で温かい飲み物などを飲むことなどで、低体温症から回復することもある。そのような場合は、後遺症が残ることは多くない(※)ので、救助隊に付き添われて下山し、医療機関での加療を要せず帰宅できることも多い。

※ 深部体温が極端に低くなって重症化した場合は、脳損傷を起こして後遺症が残ることがある。甘く見てよい疾病ではない。

無事救出等といっても、仮に救助作業で被災者が発見できていなければ、重大な災害になっていた可能性が高いケースも多いのである。

労働安全の専門家には「無事救出」とされていると「ヒヤリハット事例」のように思えるかもしれない。しかし、一部には、低体温症や軽度の凍傷(※)になっているケースもあり、たんなる「ヒヤリハット事例」ではないことに留意しなければならない。

※ 凍傷も重傷でなければ、早めに温水などで温めることで回復することが多い。しかし、重症化して組織が壊死すれば切除するしかなくなり、重大な後遺災害となる。


(ウ)1990 年以降の増加傾向の要因

年号が昭和から平成に変わった直後の 1990 年あたりから、遭難者、負傷者ともに急速に増加している。なお、2024年(令和6年)の減少は、クマによる被害が大きく報道されたため、登山そのものを見合わせる方が増えたことが理由となっている可能性がある。

1990 年ころからの増加の原因は、初心者向けの低山への登山が中高年齢者の間でブームとなったことも一因とされることもある。しかし、次節で見るように、この間の登山者数が増加傾向にあったわけではない。近年の遭難発生件数の増加は、たんなる登山ブームだけでは説明がつかないものがある。

この 1990 年ころからの登山ブームでは、高齢の方が初心者向けの低山へ登ることが多かったため、費用の節約による装備の不備等もあって被災件数が急増したのではないかとの指摘もある(※)

※ 山と渓谷オンライン「物価高が低山ブームの背景に!? 無理な節約で遭難のリスクも|物価高と登山に関するアンケート結果②」(2025年7月4日)


イ 登山者数等の推移

推定登山者人口(レジャー白書による)

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図の日本生産性本部の調査(※)によれば、遭難件数が増加した 1990 年以降に、我が国の登山人口に増加傾向が見られるというわけではない。むしろ 2003 年から 2008 年には落ち込んでおり、2009 年に急増した後は減少傾向に転じている。2023 年も 2008 年より以前の水準には戻っていない。

※ 日本生産性本部「レジャー白書」(各年版)より

もっとも、山形(※)によれば、この統計は「2009 年度版(2008年の統計)までは訪問留置法によるアンケート調査だったのを、2010年度版(2009年統計)からインターネット調査に変更した」ことや「登山が包括する多様なジャンルを区分けしていない、つまり登山の多様性にアンケート内容が追い付いていない」などの問題も指摘されている。

※ 山形俊之「平成登山ブームに関する一考察」(湘北紀要 No.34 2013年)

すなわち、2008 年までと 2009 年以降に統計の連続性はなく、また「登山者」には様々な概念が含まれており、前節の警察庁の統計の山岳遭難の統計とは必ずしも一致していないと考えるべきある。

3大山岳組織会員数等

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また、公益社団法人日本山岳・スポーツクライミング協会(JMSCA)(※)が、3大山岳組織の会員数を公表している。こちらは、山岳会に加入している方の人数なので、本格的に登山を愛好する方(ベテランあるいはこれからそうなろうとする方)の人数であると考えられる。

※ 公益社団法人日本山岳・スポーツクライミング協会「山岳遭難事故調査報告書」。なお、3大山岳組織とは、公益社団法人日本山岳・スポーツクライミング協会(JMSCA:日山協)、日本勤労者山岳連盟(JWAF:労山)及び日本山岳救助機構合同会社(jRO:2007年度までは、東京都山岳連盟の運営する「都岳連山岳.遭難共済」)である。

ただし、jRO は急成長をして 2022 年には会員数が 13 万人まで伸びていたが、同年6月にココヘリに買収されて「ジロー(ココヘリ準会員)制度」となり、2025 年3月には新規会員の募集を終了している。

ただ、これもアンケート調査であることの他、2013 年度、2014 年度及び 2020 年度以降は、日本山岳救助機構合同会社(jRO)を含んでおらず、この間の統計の連続性はない。

一方、日山協「山岳遭難事故調査報告書」によると「登山事故は2団体の(2024 年度の:引用者)事故者数が 1011 人となった。一般事故者数を含むため比較が難しい問題があるが、2003 年でほぼ同数の 59,428 の会員数の時、事故者数約 500 人であったことから、当時の倍の発生数となっている」としている。

山岳登山のベテランであっても、登山者数当たりの遭難者数が増加していることも事実のようである。


(2)目的別山岳遭難の発生件数

目的別山岳遭難の発生件数の推移

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次に、入山の目的別にみた山岳遭難発生件数の推移を見てみよう。

※ グラフも警察庁生活安全局生活安全企画課「令和6年における山岳遭難の概況等」(2025 年6月)による。

ここで、(広義の)「登山」には、(狭義の)登山、ハイキング、スキー登山、沢登り及び岩登りが含まれている。このうちハイキングは他の項目と危険性のレベルが異なり、また遭難件数全体に占める割合も2024年からの過去5年間で 6.6 %と大きいので、グラフ作成に当たって項目を分けた(※)

※ (広義の)登山のハイキング以外は、登山が 67.5 %で、スキー登山、沢登り及び岩登りをすべて合計しても 5.5 %である。

また、「その他」には、観光(2024年から過去5年間で全体の 1.6%。以下同様)、作業(1.4%)、渓流釣り(1.0%)、写真撮影(0.5%)、自然観賞(0.7%)、山岳信仰(0.7%)、狩猟(0.3%)、スキー(2.5%)、その他(1.9%)及び不明(0.8%)が含まれる。

要するに、山岳遭難する場合の入山目的は、ほとんどがハイキング以外の登山であり、全体に占める割合も、60 %から 70 %程度で、近年、その割合が増加傾向にあることが分かる。


(3)態様別山岳遭難の発生件数

ア 態様別山岳遭難の発生件数の推移

態様別山岳遭難の発生件数の推移

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次に、遭難の態様別の発生件数の推移を、これも警察庁の統計(※)から示す。

※ グラフも警察庁生活安全局生活安全企画課「令和6年における山岳遭難の概況等」(2025 年6月)による。

なお、「その他」の内訳は、転落(2024年から過去5年間で全体の 2.6%。以下同様)、悪天候(1.2%)、野生動物襲撃(1.1%)、落石(0.4%)、雪崩(0.8%)、落雷(0.0%)、鉄砲水(0.1%)、(有毒ガス0.0%)、その他(5.9%)不明(2.5%)となっている

もっとも、遭難の態様は複数の要因がからんでいる場合が多く、単純に分類できるようなものではない。悪天候の中で疲労して道に迷って歩き回り、滑落して動けなくなって低体温症で死亡するというようなケースなどもあるからである。


イ 山岳における道迷いの危険性

山岳遭難では、道迷いが最も多いことが分かる。登山の経験がない方は「道迷い」で遭難と言われても、大したことではないと思われるかもしれない。しかし、山で道迷いをすれば、天候や装備によっては、ただちに死の危険が伴うのである。

日没までに下山できなかったり、宿泊場所を見つけられなかったりすれば、そのまま歩きまわると滑落する危険がある。そもそも吹雪の中では歩き回ることができないこともある。夜は、吹雪や厳寒の状態でもビバークせざるを得ない。

また、運よく救助要請ができたとしても、16 時程度より遅いと、荒天であれば救助開始は翌朝以降になることも多い。ヘリが飛べなければ、救助隊が着くまでに 18 時間以上かかることもある。

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※ ツェルト(©photoAC)

夏でもなければ、夜の山岳は冷え込む。テント又はツェルト(支柱のない簡易なテント)、マット、ダウンの防寒着、山岳用レインウエア、シュラフ、食料と水、ガスバーナーなどの備えがあれば、怪我をしていない限りビバークしてもただちに危険なことにはならない(※)

※ 絶対というわけではないが、装備があると遭難したときに生還できる確率は高くなる。あるとき、6人のパーティで2人が同じ場所で滑落したが、2人ともビバークの総部は十分ではなかったという事故がある。

1人は 200 メートル滑落し、すぐに仲間に発見されたが怪我をしていて登り返すことができず、2日後にヘリが発見したときには低体温症ですでに亡くなっていた。もう1人は、500 メートル滑落したが、なんとそこには 10 分前に同じ場所で滑落した別な登山者がいたのである。その人物がツェルトを所有していたため、翌日の午後にヘリが2人を発見したとき、凍傷にはなっていたものの生命に別状はなかったという。

テントやツェルトがなくても、雪が積もっていれば雪洞を作ることも可能だが、スコップを持参していなければ食器か何かを使って雪洞を掘るしかなく、寒さを十分に防げるものはまず作れない。しかも、防寒着を十分に持参している場合ばかりではない。とにかくあるだけの衣服を着て、サバイバルシートなど身体に巻き付けられるものを巻きつけて、吹きさらしの場所で過ごすしかないこともあり得る。

不十分な装備で、吹雪や厳寒の状態でビバークすれば、一夜だけでも低体温症で死亡するリスクもあるのだ。


ウ スマホと道迷い

ピンクテープ

※ ピンクテープ(©photoAC)

登山道には地方自治体が設置した標識がある(こともある)が、数は多くなく、分かりにくいものもある(※)。登山道には道標となるピンクテープが巻きつけられていることがあるが、個人が目印のために付けたものであり、必ずしも登山道を表しているとは限らない。

※ ひどいケースになると、A市とB市の境界近くにA市が設置した道標があり、A市の施設への案内だけが書かれていてB市の登山道への案内が書かれていなかったため、B市の登山道へ行くはずの女性2名のパーティが遭難したというケースさえある。

登山で道しるべとすべきは、地図とコンパス(と実際の地形)である。最近はスマホの山地図アプリが普及してきたため、道迷いのリスクは少なくなったはずである(※)。それでも 2024 年の全遭難者(無事救助を含む)3,357 名の 30.4 %が道迷いだという。おそらく、山地図アプリをそもそも使用していなかったか、スマホのバッテリーが切れたとか、紛失・破損・低温などで使用できなくなったのであろう。

※ 山岳遭難におけるスマホの利用状況については後述するが、スマホが圏外になっていても、登山前に地図データをダウンロードしていれば、GPS 機能で自分がどこにいるかが分かるし、予定コースから外れれば警告してくれる機能もある。また、圏内であれば自宅にいる家族が、自分がどこにいるかを表示してくれる機能を備えたものもある。


エ 山で迷った場合の鉄則

なお、山で迷った場合は、登山愛好者なら誰でも知っていることではあるが、次のようなことが鉄則となる(※)

※ 道迷いが生じたときの対策については、日本山岳救助機構合同会社のサイトにある「遭難|道に迷ってしまったら」や、山と渓谷オンラインの「山で困った時の対処法」がよくまとまっている。

【道で迷った場合の鉄則】

  • 救助要請ができて、救助隊に現在地を報せることができたら、救助隊の指示に従い原則としてその場所を動かない。
  • 救助要請ができない場合は、(危険がなければ)来たコースを引き返し、正しい登山道まで戻って道を確認する。
  • もと来たコースが分からなければ、坂を下るのではなく坂を上って尾根の登山道を探してから、登山道を下る。とりわけ登り返せないような坂を下ってはならない。
  • 沢筋に行き当たった場合、よく知っている沢筋でない限り、沢筋を下ってはならない。
  • 慌てず、落ち着いて行動する。

とは言え、現実に、道迷いをしたときに、日没が迫っていて精神的に追い込まれると、分かってはいてもなかなか教科書通りにはできないものではあるのだが・・・。現実に多くのベテラン登山家が、この原則とは異なる判断をして、結果的に逆に事態を悪化させるようなことになっていることも多いのである。


(4)年齢別山岳遭難の発生件数

ア 年齢別山岳遭難の発生件数

年齢別山岳遭難の発生件数の推移

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次に、遭難者の年齢別の発生件数の推移を、これも警察庁の統計(※)から示そう。山岳事故という言葉から、登山をしない方は、比較的若い方が遭難していると思われるかもしれない。しかし、意外に高齢者が多いのである。

※ グラフも警察庁生活安全局生活安全企画課「令和6年における山岳遭難の概況等」(2025 年6月)による。

高齢者が多いのは、高齢者は体力や知力が衰えていることがあり遭難しやすい面があることが第一に挙げられる。また、そもそも山岳登山愛好者に比較的高齢者が多いことも原因のひとつのようだ。


イ 年齢階層別登山者数

年齢別「登山・ハイキング」の行動者数

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登山愛好者の年齢構成について調査した統計としては、総務省統計局の「令和3年社会生活基本調査」(※)がある。

※ 総務省統計局「令和3年社会生活基本調査」の「表15-1 男女,ふだんの健康状態,頻度,年齢,スポーツの種類別行動者数(10歳以上)-全国(2021年)(Excelファイルが DL されます。)」

これによると、2021年の「登山・ハイキング」を行った国民の年齢層は、40 歳台から 50 歳台前半にピークがあることになる。実際に登山をしている方は、登山者の年齢層はもう少し高いような気がするかもしれない。

これに対し、遭難者の年齢層は、60 歳台と 70 歳台にピークがあるので、高齢者の災害が多いのは、やはり比較的高齢者の登山愛好者が多いことのみならず、高齢者は事故に遭うリスクが高いということもあるのだろう。


ウ 年齢階層別登山者数と遭難者数の比較

2021年の遭難者数・登山者数の年齢別割合

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2021 年の遭難者数と登山者数の年齢別割合を、両者の年齢区分を統一して重ね合わせると図のようになる。

70 歳台以上になると、登山者数の割合よりも遭難者数の割合の方が高くなることが分かる。やはり、交連者は災害に遭うリスクが高くなるのである。

もちろん、このことから「高齢者は山へ登るべきではない」という結論を導き出してはならないだろう。高齢者は、自らの体力が若いころに比べると劣っているということを自覚して、慎重に登山を行う必要があるということである。

とりわけ力が劣ったという理由で、必要な装備を持たずに登山をするようなことは避けなければならない。また、できる限り単独登山は避け、若い登山者と同行することが望ましいだろう。

さらに、スマホの地図アプリなどの使用方法を習得し、ココヘリ(※)などの利用をすることも検討するとよいのではないだろうか。

※ AUTHENTIC JAPAN 株式会社が運営する捜索救助活動を提供するサービス。有料の会員制度で、会員は会員証となる発信機を渡され、遭難の知らせがあると、ヘリやドローンで遭難者を捜索・救助するサービスを受けられる。

当然のことだが、会員証の破損、紛失、バッテリー切れには十分な注意が必要である。なお、筆者は AUTHENTIC JAPAN 株式会社とは無関係であり、同社のサービスに関して責任を負うものではない。

なお、独立行政法人日本スポーツ振興センターが、山岳遭難の年代別の特徴とその対策(※)をまとめているが、2021 年の登山回数 10 万回当たりの遭難数推定値は、転倒・転滑落、病気及び疲労は年齢が高くなるほど多くなる傾向がある。これに対し、道迷いと悪天候等は年齢が高くなると逆に少なくなる傾向があるようである。

※ 独立行政法人日本スポーツ振興センター「コロナ禍以降の山岳遭難データから読み取る年代別の特徴とその対策」(2025年7月)


エ 年齢階層の時系列的な変化

出生年別「登山・ハイキング」の行動者率(平成8年,23年)

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なお、やや古いデータだが、行動者率の変化について、総務省が 2011 年(平成 23 年)と 1996 年(平成8年)を比較したデータ(※)を示している。

※ 総務省統計局「登山・ハイキングの状況-「山の日」にちなんで-(社会生活基本調査の結果から)

これによると、1996 年(平成8年)には比較的高齢層になだらかなピークがあったが、2011年(平成23年)にはすべての年齢でフラットになっている。高齢者の登山への意欲が薄れつつあったのかもしれない。


(5)単独登山者の山岳遭難の発生件数の推移

単独登山者の山岳遭難の発生件数の推移

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山岳遭難においてリスクが高いと言われる単独登山者の遭難件数は図のようになっている。全遭難者に占める単独登山者の割合は、40 %前後となっている。また、次図に、単独登山者とグループ登山者の遭難者数の推移を示した。単独登山者とグループ登山者の遭難者数は、お互いに独立しているようなものではなく、正の相関があるようだ。

一方、登山者に占める単独登山者の割合は、全国的な調査は存在していないが、都道府県ごとの調査や、環境省が「登山者調査」として山岳ごとに登山者のグループの人数を調査したものがある。しかし、いずれも限定的なものである。

例えば、環境省による「登山者調査」で、1995年の7月22日から8月31日まで屋久島で行った調査がある。これによると、全登山者 1,753 名中、単独登山者は 430 名でその割合は 24.5 %であった。

単独登山者とグループ登山者の山岳遭難の遭難者数の推移

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また、石川県による「白山高山帯保全対策調査報告書」の「登山者利用動態」によると、単独登山者の割合は、2001 年 11.9 %、2002 年 9.2 %、2003 年 7.0 %などとされている。

さらに、山梨県による「富士山における来訪者管理に関する検討」の「平成 28 年度調査報告書」では、全回答者 1,384 名中、グループの人数が1名と回答した者は 211 名で15.2%であった。なお、平成 27 年調査では「単独登山者も2割程度(21.2%)存在している」とされている。

このような調査結果からは、実際に単独で登山をする方の割合は1~2割程度と考えられ、遭難者に占める単独登山者の割合が4割という数値はかなり高いものといえよう。

単独登山者の山岳遭難の発生件数の推移

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この図は、遭難者に占める死亡、行方不明、負傷、無事救出の割合を単独登山者とグループ登山者に分けて比較したものである。

これを見れば分かるように、単独登山者の場合は、死亡または行方不明になる割合が高いことが分かる。

よく言われるように、単独登山では、仲間の協力が得られないため、死亡または行方不明になることが多いのであろう。


(6)通信手段の使用状況別山岳遭難の発生件数

ア 山岳遭難でスマホ等が使用されている件数

通信手段の使用状況別山岳遭難の発生件数の推移

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こちらは、通信手段の使用状況別の遭難発生件数の推移である。これまでのグラフは、遭難者数や登山者数など個人の数だったのに対し、このグラフは登山グループの件数となっているのでご留意頂きたい。また、通話エリア圏外やバッテリー切れ等によって救助側と連絡が取れなかった場合も「使用なし」に含まれている。

ここで、驚くほど通信手段が使用されていない割合が高いことが分かる。圏外で使用できなかったケースが多いものと思われる。今後、「ダイレクト衛星通信」が普及すれば、その割合は減少してゆくものと期待される。


イ スマホは山岳遭難の生命線

近年、登山はおろか一般の外出でもスマホを持たずに出かけるということは考え難い。とりわけ、近年ではスマホは登山者にとって生命線となりつつある。日本勤労者山岳連盟(※)が、「特に遭難時の捜索救助体制の進歩は目覚ましく①救助要請は携帯電話(スマホ)で、②捜索はココヘリ、③救出はヘリとなって来ている。また地図読み(読図)もGPS(スマホのアプリを含む)を活用すればほぼ道迷いは無い」と指摘している。

※ 日本勤労者山岳連盟「登山者と山、登山者と山岳会に関するアンケート調査」(2018 年 11 月)

遭難したときにスマホが使える場合、本人が救助を要請して自分の位置情報を伝えれば、救助者側としてもピンポイントで救助活動ができるので、救助までの時間が短くなる。山岳遭難では、この救助までの時間がどれだけ短縮できるかが、命が助かるかどうかの重要なファクターになるのである。

なお、先述したように登山地図アプリは事前に地図データをダウンロードしておけば、スマホの圏外でも使用可能である。しかも、紙の地図では、一旦、予定のコースを離れると現在地を特定するのには、かなりの熟練が必要で、しかも猛吹雪の中では紙の地図を使うことは事実上不可能になる。従って、登山の前には、地図データをダウンロードし、モバイルバッテリーを準備することが必須となりつつある。


ウ スマホが使用できない場合のために

(ア)スマホは使用できなくなることがある

しかし、スマホは、紛失、破損、低温によって使用できなくなることもあるので、留意する必要がある。

このグラフの「使用なし」は、スマホを持っていなかったというわけではなく、おそらく圏外、バッテリー切れ(※)、低温による使用不能などによるものであろう。ここ数年、「使用なし」の割合が増加して3割程度になっている。「スマホがあれば大丈夫」とはいかなくなっているということであろうか。

※ 最近のスマホは、雨で多少濡れた程度では使えなくなることはないが。充電プラグの差込口に水が入ると、モバイルバッテリーを持参していても充電ができなくなる。防水ケースを持参することをお勧めする。


(イ)山ではスマホをなくすこともある

登山をしない方には、スマホの破損や紛失などあり得るだろうかと不思議に思われるかもしれない。しかし、実際に笹やぶの中でスマホを落として道迷いをした例や、坂道を滑り台のように滑って降りたときになくした例もある。また、滑落したときにスマホを紛失したり破損したりして、肝心なときに使えないという例も散見される。さらには、猛吹雪で遭難し、スマホで救助要請をしようとしたときに吹き飛ばされてなくしたという例さえある。

なお、バッテリーが残り少ないときは、不要なメール等を受信するとバッテリーが消耗するので、機内モードにしておくという方法がある。その場合でも、110 番とは話せるので、一つの選択肢となる(※)

※ なお、最近のスマホは、(旧式のものとは異なり)機内モードに設定しても、位置情報サービスを無効にしない限り、GPS 機能は OFF にならないため、位置追跡機能は使用可能である。


(ウ)圏外では連絡は取れない

さらに、救助要請をしようと思ったときに圏外だと、(グループ登山をしているときは、)誰かが電波の通じるところまで移動しなければ救助要請ができない(※)ということもある。なお、最近では、「ダイレクト衛星通信」が普及しつつあるので、登山をする場合はこちらを利用することも検討した方が良い。

※ 遭難者自身が救助要請をしなくても、同居者や宿泊予定の山小屋などから(予定時間に戻ってこないために)救助要請が出されることはあるが、その場合は場所の特定ができない。このため、遭難者自身が救助要請する方が、位置を特定できるのでスムーズな救助につながる。なお、遭難者がスマホで救助要請できない場合には、ココヘリが役に立つことがある。


(エ)連絡が取れない場合は山岳届が生死を分けることも
山岳届を出す女性

※ イメージ図(©photoAC)

なお、遭難した本人が救助要請ができない場合、同居者や宿泊予定の山小屋の職員が、帰宅や到着が遅いというので遭難を疑って救助要請が出される場合がある。この場合は、救助隊が遭難した場所を絞り込む必要がある。遭難場所を絞り込めなければ救助活動はできないので、位置情報共有アプリやココヘリなどを利用しているかどうかが、生死を分ける重要な要素となる。

また、同居者が登山計画を把握していることの他、登山届を出しているかどうかも重要となる。ところが報道によると、2025 年の夏山の遭難では登山届の未提出が7割に上るという。

※ 朝日新聞「夏の山岳遭難、過去最多の808件 登山届未提出7割、負傷者が増加」(2025年9月16日)。なお、警察庁生活安全局生活安全企画課「令和7年夏期における山岳遭難の概況」(2025 年9月)には、7割が登山届未提出との記述はない、

なお、山岳届はネットでも提出できる。事故が起きたときに、ネットで提出しておくと、救助する側は、短期間で検索することができる。紙の登山届の場合は、救助側が多数の登山届の中から遭難者のものを探さなければならないので、救助に時間がかかることがある。山岳届は、ネットで提出するのも方法である。


2 遭難事故に遭わないために

(1)過去の遭難に学ぶために

遭難をしないようにしたり、遭難したときに確実に生還するためには、過去の遭難事故から学ぶことが重要である。とりわけ、経験の少ない初心者のときは、過去の貴重な遭難事故の経験から学ぶことが有効である。

最近では、過去の山岳遭難を解説する YouTube チャンネルもあり、分かりやすく問題点などを理解することができる。お勧めの YouTube チャンネルを3つ紹介したい。

なお、いずれも登場人物はキャラクターを使用して解説し、悲惨な場面は出てこないが、あくまでも事故の解説なのでその種のストーリーが苦手な方は閲覧は避けて欲しい。また、この種の動画には批判もあるという事実を指摘しておく。


ア 生きて山から帰るには【山岳遭難解説】

まず「生きて山から帰るには【山岳遭難解説】」を紹介しよう。背景に実写が使われることはあるがほぼイメージ画像であり、登場人物には二次元のキャラクターが用いられている。登場人物も仮名で、Aさん、Bさんなどと呼ばれている。

1つの遭難が 20 ~ 30 分程度の動画にまとめられている。事故の経緯が、分かりやすく解説されており、問題点やどのようにすれば避けられたのかが要点をとらえて解説されている。

※ 生きて山から帰るには【山岳遭難解説】「【山中置き去り】台風 クレーム ガン無視ツアー羊蹄山遭難事故1999年9月 【地形図とアニメで解説】」より。

著者は、ベテランの登山家の方で、実際に山へ登った体験に裏付けられた解説となっており、非常に役に立つ。


イ ゆっくりと学ぶ山での悲劇

次に、「ゆっくりと学ぶ山での悲劇」である。

「ゆっくり MovieMaker4」と「AquesTalk」という音声合成エンジンを使用して作成された動画である。主な登場人物には、「東方Project」から派生した二次元のキャラクタの画像が割り振られており、ストーリー内の個人名はキャラクターの名称に置き換えられている。

15 分から 20 分程度の動画で、ひとつの遭難について、2人の登山者が質疑をする形式で解説するスタイルである。

事故の経緯や本質が、著者の方の想像を交えて分かりやすく解説されており、非常に参考になる。

動画の一つを埋め込み形式で紹介する。

※ ゆっくりと学ぶ山での悲劇「百名山"最難関"の霊山に挑んだベテランたちの末路【ゆっくり解説】【2017年 幌尻岳遭難事故】」より。


ウ ゆっくり遭難物語

最後に「ゆっくり遭難物語」であるが、「ゆっくり MovieMaker4」と音声合成ソフトを使用しており、イの「ゆっくりと学ぶ山での悲劇」とほぼ同じ形式である。

これも、事故の経緯や本質が、著者の方の想像を交えて分かりやすく解説されており、非常に参考になる。

動画の一つを埋め込み形式で紹介する。

※ ゆっくり遭難物語「【ゆっくり解説】雪山で1人のある行動が10名の運命を変えた!生還できたのは...【2024年風吹岳遭難事故】」より。


(2)事故に遭わないために

もちろん、山に登る以上、遭難するリスクをゼロにすることはできない。登山をするとは、すなわちそういうことなのである。しかし、遭難のリスクを下げることはできるし、下げなければならない。

山岳登山を愛好するのであれば、山で死ぬことは栄誉ではない。事故に遭わないことこそが栄誉なのである。

筆者の大学の大先輩であり筆者の尊敬する世界的な登山家の植村直己氏(※)は、単独登山で亡くなられたが、これは十分な準備をした上でのことであり、決して不合理なリスクをとったためではないと筆者は考えている。

※ 同じ大学を出たというだけで、知り合いではない。

氏の生涯は後に映画「植村直己物語」として1986年に公開された。この映画でご令室が語った「私は今でも上村が生きていると信じています。冒険とは生きて帰ることだといつも偉そうに言っていましたので。ちょっとだらしがないんじゃないのと」というのは、遭難で亡くなったご家族に共通の思いであろう。

山で死ぬリスクを徹底的に下げるため、十分な準備と装備(※)を整えて山へ入り、天候の悪化が予想されたりグループの誰かが体調不良となったときなど、危険が予想されたら停滞か下山する勇気を持ちたいものである。

※ 政府広報「山の事故を防ごう!登山を楽しむために知っておきたい安全対策」に山岳遭難対策の概略が紹介されている。また、山岳遭難対策中央協議会が「あなどるな!自然の力、冬の山」に「冬山装備チェックリスト」を紹介している。

また、遭難して自ら救助要請ができない場合に備えて、誰かに遭難したことに気付いてもらえるようにしておくことも重要である。同居者に、登山計画(どの山にどのルートで登り、帰宅予定時間はいつになるか)を伝えておくことも重要である。

なお、山で遭難した場合、救助のための費用は、警察・消防の活動については(一部地域の防災ヘリの出動などを除いて)遭難者に請求されることはない。しかし、民間の救助にかかった費用については、原則として本人に請求される。極端な場合、数百万から数千万円になることもあるので、山岳保険(補償される範囲は様々である)についても加入しておいた方がよい。


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